越えてゆく韓国のヴィジュアル誌
韓国で見つけた雑誌を2冊紹介します。2冊ともヴィジュアル雑誌です。
MAPS MAGAZINE
2007年に出版された文化とファッションを融合させた月刊誌。世界に韓国のファッションとカルチャーを同時に紹介しながら、才能アーティストを発掘・交流することでマーケットの活性化をはかる。韓国で今起こっている革新的なデザインを、独創的な写真でみせてる。
下の写真の号はコラボレーション特集で、デザイナーとフォトグラファーがタッグを組んで新しい見せ方に挑戦。巻末は若手ミュージシャンへの一言インタビューなどもあり。
まだ他の号はみたことがないが、この号は本屋で目をひき購入。広告でも本の表紙でも、何より人の顔が一番印象的で目立つわけだが、その中でも目はインパクトがある。
期待通り、面白い写真ばかり。次の号も楽しみだがいつかどこかでまとめてバックナンバーを見ることができるだろうか。
誌名はそんなに大きくなく、この号の特集タイトルは下の方に小さく。目立つことが目的ではなく。
どう?かっこいいでしょう?! とっても良いです。かっこよければいいという精神でものを作ると、それ自体に意味が生まれる。いくら資本主義とはいえ、物品を売ることだけが雑誌の役割ではない。この雑誌、そういえば広告なかったな、、、
※ この号掲載の作家名などのマニアックな背景は今回は略させていただきます。
BLINK MAGAZINE
毎月発行される、アート写真専門独立雑誌(※)。表1、表4が両面とも表紙で、A4サイズのギャラリー。海外の写真作家の新作を中心に構成し、新鮮で独創的な海外の作品を韓国に紹介するとともに、韓国の若手作家を海外に紹介もしている。
構成はシンプルで、作家名、インタビュー、作品。しかし、芸術の鑑賞法に決まりはなく、自分で見て感じたものが正解であるとの考えから、インタビューは作品の解説をするものではない。
このBLINKは김아람(キム・アラン)さん一人で出版されている。約100Pの雑誌をだ。アーティストの作品ライセンスを取り、インタビューし、編集してデザイン、印刷出版まで、全てキム・アランさん一人で行っている。
彼女のインタビューが面白かったので要約して紹介します。
幼少時代の夢はアーティストだった。夢はたくさんあったが、その中でも写真家になることを夢みてたくさん写真を撮った。写真家になるためには高い学費と材料費が必要な学校に通わねばならなかった。しかし家は裕福ではなかった。そこでお金のかからない文筆業にたずさわろうと考えたちょうどその頃、ある写真雑誌の創刊メンバーの募集により、好きだった写真の記事を書く職を手にした。そうして写真雑誌社で働いていたが、上司との方向性の違いで退職することになる。退職してから作家のAlexand Felixから記事を書いてくれないかと連絡を受けるが、以前の会社は仕事をさせてくれなかった。しかし、海外写真アーティストを韓国に紹介するというアイデアは元々彼女のものであり、アーティストリストも彼女が一生懸命作り上げたものだ。
それで彼女はBLINKを創刊することを決意する。決めてから3日間徹夜しデザインをして入稿、1週間後には印刷があがった。
BLINKは海外では広く知られているが、韓国でまだ知られていない写真作家を発掘し紹介する。多くの作品を見ながら、興味を持った作家に連絡しインタビューする。作品は作家からデータでもらえばよい。発行費用は、それまでのBLINKの売上げと、雑誌への寄稿、作家のマネージャー、展示企画で得たものでまかなっている。作家からポートフォリオが送られてくる場合もあるが、大部分はアートフェアなどへ行き作家やキュレーターに会うことでネットワークを広げ発掘する。
2017年6月現在ですでに51号。
このような柔軟な考え、思い立ったら迷う前にやってみようという行動力は、韓国の人々の性格によるものだろう。海外アーティストの作品を扱うのは難しいのではないかと思うが、それをやってのけてしまうから驚きだ。
ブリンクは表紙に誌名がない!背表紙にのみ小さくロゴが入るだけである。
※「独立」というのは韓国の言い方で、最近韓国では「独立出版物」「独立書店」とよくいわれ、いまや文化になった。私が紹介している本屋も独立書店と言われるもので、つまり「小規模」とも言える。独立出版物とは日本の自費出版に近いが、少人数の出版社や個人で出版する広告のない出版物を言う。日本の自費出版より少し範囲が広い。
日本のように、何の雑誌かわかるように誌名の上にキャッチつけるとか、特集やサブ特集名まで入れたり、本屋やコンビニの棚挿しを考慮して上辺に誌名をでかく入れるとか、韓国はそんな小さなことは考えない。かっこよければいい。もちろん「独立出版物」だからというのもあるだろう。自由度が高いから良いものがたくさん生まれる。もちろん売れるにこしたことはないが、その方法は本のデザインとは別のところで考える。うらやましいの一言だ。
ただし、独立出版物には落とし穴もある。編集者という第三者の厳しい目や、校正が入らないことだ。それをよくない指摘する人もいる。ぬるい文章が世にでまわるのは間違えた文化を作ることであり、文章 = 芸術 ではなくなってしまうということだ。それもうなずける指摘だ。
既存にとらわれず、本当に良いと思うものを自分の信念で作り上げるそのパワー。私もそのようにもの作りをしたいとつい影響を受ける。もちろん日本は素晴らしい出版物であふれている。しかし、一部宣伝カタログ化しているのも否めない。
韓国の出版物にこれからも注目していきたい。
0コメント