夢見た未来はやってきたか
テクノロジーのようなものが好きではない。新しいものにもまずは抵抗する方だ。
そんな私に、いつも便利で新しいものを教えてくれる友人がいる。
何年も前になるが、海外のひとり旅では地図を頭に入れて行くというと、その人はGoogle mapにアドレスをマッピングすればいいと教えてくれた。その時は「なんやそんな文明使って旅になるかい」と否定したが、結局Googleに頼って旅行し、今でもそうしている。非常に便利だ。
Netflixの楽しさ、Spotify、モバイルスイカ、Google drive、、、生活を少し便利にしてくれて荷物を少なくしてくれて、それでいてちょっと楽しくなる。毎度一応は否定してみるのだが、結局恩恵にあずかることになっている。非常に便利でありがたい。
『さよなら未来 エディターズ・クロニクル2010-2017』若林恵 著/岩波書店 も、いつか読もうとリストに入れていたけど、上記の私の専属モバイル部長がこの本の出版イベントに行かないかと誘ってくれ、とにかく読んでみた本だ。雑誌『WIRED』の編集長である若林氏がいままで書いたものを集めた本で、「みんなの思う未来ってなんだったの?」を問う本である。
久しぶりに自分への宿題のような本で、ほとんどのページの角を折り、線をひきながら興味深く読んだ。
『WIRED』といえばテクノロジー、ビジネス、この先にはどんな世界があるのだろうか?を考える雑誌だ。そんな雑誌を作っている編集長が実はそういった「未来志向」に懐疑的であり、つねに「それって本当なの?」「なにが正しいの?」「便利に本当の価値があるの?」それを人を通じて改めて考えるような姿勢が大好きで、藤田裕美さんの誌面デザインも大好きで注目していた雑誌だ。
今現在のこの場所から見た、我々が手塚治虫先生のマンガのようにイメージしてきたものと、これからを見据える、楔のようなこの「さよなら未来」を抱えて今漠然と考えているのは、インターネット情報についてだ。Netfrix「デイビッドレターマン」でオバマ元大統領が面白いことを言っていた。というか、前にもどこかで聞いた話でもあるが、それをオバマさんが話すことに深い意味があるような気がする。要は、自分が毎日利用している検索エンジンはすでに自分用のアルゴリズムによる情報しか出てこないということ。実験によると、同じキーワードを3人各自のPCで検索するとトップに出てくる情報は3人違うものが出てくる。自分に合わせた情報の中で、それが地球上の中立だと思い込んでしまう。
一体、「本当」はどこにあるのか。
均衡は保たれず。
それぞれのアルゴリズムの中心で、
何かを叫ぶのはおやめいただきたい。(古)
そんなことをグズグズ書いていても埒があかないので、
例えば「さよなら未来」の一部を抜粋したい。
『WIRED』の「未来の学校」という特集の巻頭文の要約。
こらからの就職や働き方はどうなっていくのか。もう安定は保障されない時代なのだから、ドロップアウトでもしちゃえばと我が子に言う勇気もない。もう自分の力だけで望む方へ進むしかなく、これからは誰にとっても厳しいサヴァイヴァルになるだろう。
とした上で、
「そうと知りながらぼくらはいま、子どもたちを丸腰のまま、その最前線へ放り出そうとしている。一方、本来、先陣を切ってジャングルを進んでいるべきぼくらはと言えば、安全地帯に長く暮らした安穏さのまま、いつかは動くんだろうとぼんやり信じながら、混み合ったエスカレーターにいつまでも乗っかっているのだ」
ときたもんだ。
本当に文章が上手くて、論理的でありながら感情がすごくこもってる。
で、耳が痛い。
ブックデザインもとても素敵だ。藤田裕美氏によるもの。イラストのコラージュはなんだか未来を夢見たちょっと昔な印象を受けるし、せつなさがある。中の若林さんの文章は強いけど繊細で、毒の中に爽やかささえ感じる。そういった微妙な雰囲気がよく表現された装丁。
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下北沢のB&Bで行われたトークイベントにも行ってきた。
岩波書店 編集の渡部朝香さん、著者の若林恵さん、デザイナーの藤田裕美さん。メンバーに合わせた話だったから、本の内容というより誌面作りの話に特化していて、それはそれでとてもおもしろくて良い話もたくさん聞けたけど、SNSでさんざんレポ書いてしまったので、ここでは省略。
一番大事だと感じたのは、我々はちゃんと把握しているのかということ。
おのれは何を買って、何を売ろうとしているのか。それは職能の話で。専門家がいるなら余計な口出ししてダメにしてしまわないで、ちゃんとまかせようぜという話だった。だけどまかせるから知らない後よろしくではなく、ちゃんと全部を好きで興味をもっているということ。
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この本には答えはない。正しい未来の姿は見当たらない。
しかし、著者 若林氏のように鋭く世の中を見て、ひとり勇敢に戦っている人がいるというのは、なんと頼もしいことだろうか。
本屋で見かけたら是非、目次だけでも見ていただきたい。
思い描いていた未来はまさに今。
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