誰かが泣いているファッションのこと
NY在住のライター・佐久間裕美子さんの『My Little New York Times』(NUMABOOKS)を読んだ。2017年7月5日から丸1年の日記で、主にニューヨークでのニュースを取り上げて書かれている。
↑文末には内容に関連した記事にとべるQRが。
↑ブックデザインは佐藤亜沙美さん。加工された紙に、写真はエンボスとタイトルは箔。帯の紙はおそらくタブロで、新聞紙のようなデザイン。
こんなに毎日何かが起きているんだなと、その出来事の多さに驚く。考えたり、調べたりしながら読んでいたから読了までに時間がかかったが、とにかく面白くて読み終わりたくない本だった。
その中で一番気になったのが、ファストファッションによる人への被害と貧困の拡大、環境破壊に関する記事だ。
ZARA、H&M、Forever 21、ベネトン、マンゴ、ユニクロ、、、いわゆるファストファッションブランドは、デザインの回転も早く、店舗はどこにでもあり、そして安く手に入る。
それらの生産は主にバングラデッシュ、カンボジア、インドで行われている。日給2ドルというありえない給料で朝から晩までこき使われ、川に流された汚染物質や綿畑に巻かれる大量の防腐剤により精神疾患やガンを患い、生産工場が崩壊しそうだという従業員の意見を無視し、コストや作業を優先されたことにより、2013年にバングラデッシュの生産工場では1000人以上の死傷者を出す大惨事が起こった。環境や人体への被害が甚大である。
誰かの不幸な血によって作られた服を、私たちは何も知らずに着ているのだ。
それから、こういった服は買われてもすぐに捨てられる。コストを抑えるために大量に生産するため服は余る。そして余ったのを途上国に送りつけるが、そちらでももういらない、ありがた迷惑なものになっているという。結果、行き場のない資本主義の残骸が山となってうず高く積み上げられ、そのゴミ山もまた環境を破壊している。
時間があれば、というかなくても観てほしい。
佐久間さんの本の中で紹介されていた、ドキュメンタリー映画『The True Cost』。これを観たらもうファストファッションに1円もお金を払いたくなくなるはずだ。
これも佐久間さんの記事。合わせて読んでほしい。
https://newsphere.jp/series/wear-your-values/20190215-1/
ものの価値を改めて考えてみることが重要だ。企業だけが悪いのではなく、やはりそれを享受する私たち消費者の責任でもある。私たちと同じように働いている人たちが、同じように扱われ、対価が支払われるように。
きちんと作られたもの、透明性のあるもの、フェアトレードされているものを選び、
たまたま生まれた国が違うからと、目をつぶってはいけないのだ。
正しい値段のついたもの、その裏で泣いている人がいないものにお金を払うこと。
それから容易に捨てないこと。
例えばパタゴニアのように、企業は社会責任をどう果たすのか、環境について、生活のなかでの人のあるべき姿などをきちんと考え、実行しているブランドのものを買うなど、消費者の見分ける能力が問われる時代になっていく。
動物実験をしないコスメを買う、リアルファーやレザーは買わないなど、できることはまだまだたくさんある。
ところで、本の中で佐久間さんは何度か人との別れについても書いていた。誰かが亡くなってしまうことによる別れ。それだけでもう悲しみは十分なのに、なぜわざわざ人とつきあい、別れ、悲しいなんて。つきあわなければ別れもない、と。
私も同じように考えることがあって、それは将棋にはまっていた時、負けるのが嫌でとある人に言ったら「やらなければ一生負けることはない」と言われた。もちろん同時に勝ちもないけれど、その時はそういう考えもあるなと思った(ちょっと話が違うか)。
だけど別れのことで言えば少し違う。
別れは死ぬほどしんどい。なにもかもが重くてつまらなくて、朝目覚めたときに夢であるよう願ってしまう。現実とわかってすぐに落胆することになる。しばらくそんな日を繰り返す。
でも、自分や人をよく知ることができたり、習慣を変えてみたり、新しく何かを始めるとか、自分の悪かった部分をよく考えて直そうと努力したり。別れはしんどいけれど、前向きになれてより良い自分でいようと、最強な気持ちになれたりする。
もちろん別れない方がよくて、ポジティブな感情は日々の中で感じたり実行できればそれに越したことはないけど、失ってわかることってある。
自分が傷つくということよりも、大事に思っていた人を様々な悪条件が重なり図らずも傷つけてしまうことがあまりにも辛くて、申し訳なくて、変わりたいと強く願うのだと思う。
幸せが続いていく物語よりも、別離や喪失を書いた小説の方が多かったり、悲しみや淋しさを歌った曲や、トラウマやコンプレックスを描いた映画が多いのはなぜだろう。
日々の辛さゆえ何かにすがりたくて宗教があったように、痛みこそ、人を本質的な創作にむかわせるのかもしれない。
別れはつらいよね。
だけどやっぱり誰かを好きになって、たとえいっときでも楽しくて、違う世界を見ることができて、喜ばせたいと思ったり、自分を更新していけるから、ずっと恋愛していきたいなと思う。誰かと深く関わって傷つくことにびびらないでいきたいって思う。
長くなってしまったけど、とにかく365日の日記を読みながら、1つ1つに考えさせられるとてもよい本だった。
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